date : 2009/1/14
ジャンル:ミハクラ
日時:2059/**/** 23:35
from:ランカちゃん
件名:アルト君聞いて!!
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アルト君!聞いてッ
私、映画の主役に選ばれたの!
内容はわからないんだけど、
アクションものらしいの!
私にそんな大役が務まるのかなあ…
とにかく、アルト君に一番に報告したかったんだ!
じゃあ、また明日学校でね♪
−END−
ミハエル・ブランの携帯電話が、せわしなく振動したかと思うと、メールの相手は予想外の人物だった。メールを開いてみると、明らかに自分へではなく、同じ部屋に住むアルト宛に送信されたものだと気づく。
「ランカちゃん、間違って送信したのか…」
ミハエルは笑い混じりにつぶやく。自分宛に届いたものの、なんだか見てはいけないような気がした。お前宛だぞ、と少し離れた場所で黙々と紙飛行機を折っているアルトに見せるべきか、間違って送ってたよ、と彼女に送り返すべきか。ミハエルは少しなやんだが、後者を選択した。
日時:2059/**/** 23:55
To:ランカちゃん
件名:ごめんね
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アルトじゃなくてごめんね。
宛名、確認して送信したほうがいいよ♪
じゃあ、おやすみ
−END−
件名までつけるのは、百戦錬磨の恋愛テクニックを持つミハエルの技の一つだ。女の子からもらったメールには必ず返信するようにしている。軍の仕事が多忙であるにもかかわらず、任務の終った疲れた身体でも寝る前にはきちんとその日に受け取ったメールに目を通し、返事を返している。そのマメさに同室のアルトは驚くと同時に少々あきれているのだが、「女の子の気持ちを傷つけるわけにはいかないだろ。」というのがミハエルの持論である。
ランカにメールを返したあと、ミハエルは急な眠気に襲われた。
(今日のトレーニングは厳しかったからな…アルトももう寝てる。それにしても、あのメール、ランカちゃんのアルトへの気持ちが溢れんばかりにこめられてたな。なんであいつ…あんなメール毎回受取っても、彼女の気持ちに気づかないんだろ)
ミハエルは先刻のメールの内容を思い出し、くす、と笑った。初々しいランカとアルトの関係はなにやら甘酸ぱい新鮮な空気を纏って、ミハエルを含め周囲を和ませるのだ。
ミハエルは枕もとに携帯電話を置くと、床に就いた。意識が遠のく寸前に、かすかにバイブレーションの振動する音が聞こえたような気がした。おそらくランカ・リーからの謝罪のメールだろう。半分寝ている頭でそう判断したが、とたんにミハエルの意識はブラック・アウトした。
朝起きて、着信メールを確認すると、やはりランカからで、そこには精いっぱいの必死なようすでミハエルに対する謝罪の言葉と、恥ずかしそうなランカの表情が伝わってくるような文章であった。ミハエルは、「俺あてのメールだったら嬉しかったんだけどな。」とお決まりの口説き文句を添えて返信した。
ミハエルは携帯電話を閉じると、黙ってそれをしばらく見つめていた。メールの送信ミスなど、現在の進化した携帯電話ではほとんどおこらないことだ。どこかせわしなく、ちょっと抜けているところのある彼女だからこそのミスだろう。でも。
ミハエルは、あの意地っ張りで、小さな愛しい幼馴染にメールを送ってやろうと思った。思いきりの愛の言葉を連ねて、精一杯の愛情を込めて。最後に「かわいいクラウディア」とでも添えておこうか。秘めた思いを伝えるように。悟られてはいけない、悟ってはいけない思いを。間違いメールにそっと忍ばせてみようか。クランの怒り狂った表情がありありと目に浮かびミハエルは小さく笑う。まぁ、冗談だけどね。とミシェルは独り言をいう。ただ彼はひたむきな眩しいくらいに輝く歌姫の初々しい恋の詩に感染してしまっただけなのだ。