date :2009/01/13
ジャンル:バサミレ
恋をするように 声を重ねれば―――――
キスとキスの合間に
(きれい…)
ミレーヌは魅せられたように目の前の金色をみつめる。
(きれい、バサラの瞳…金色で、燃えている太陽みたい。)
半ば恍惚としていたミレーヌの意識を、バサラの声が覚醒させる。
「おい、目。」
至近距離で急に話しかけられてミレーヌははっとなった。
「目、閉じろよ。何見てんの。」
ミレーヌは今までじっとバサラの瞳を見ていたことが急に恥ずかしくなり、きゅ、と目を閉じる。バサラはミレーヌの行動をおかしくおもったが、そのまま更に顔を近づけ、キスをした。
バサラとキスをするとき、ミレーヌは大抵恥ずかしがって、バサラの吐息が唇にかかるころにはいつも目を閉じてしまう。キスをするときのバサラの目は、ミレーヌが確認できる範囲ではいつも開いている。きらきらと輝く金色の瞳が、己を見つめ、近づいてくるのを、ミレーヌは何度それを経験しても緊張を抑えることができない。心臓の脈打つ音が聞こえそうなほどの距離まで近づき、ほとんどはアクショの廃墟で、時たまミレーヌの愛車のシートで、ステージの裏で、バサラとミレーヌは口づけを交わす。今は誰もいない静まり返ったライブステージの裏だ。
だが今日の口づけは、いつもとは異なっていた。ミレーヌの目はいつまでも開いていたのだ。バサラの吐息が唇を掠め、鼻と鼻が触れる距離になってもミレーヌの瞳にはバサラが映っていた。正確には、バサラの金色の瞳が。
ゆっくりと唇を離すと、バサラはミレーヌをいつものように両手で胸に抱え込む。ミレーヌははじめ恥ずかしいのかうつむいて地面ばかりを見つめていた。ふとミレーヌは思い出したように顔を少し上げ、バサラに訊ねた。
「ねえ、バサラ。バサラはあたしとキスするときどこを見てるの?」
ミレーヌは以前から気にかかっていたことを口にする。キスのとき、常に開いていると思われる太陽の瞳は、何を見据えているのだろう。ちゃんと自分を見つめていてくれているのだろうか。いつもまぶしくて、自分は先に瞳を閉じてしまうのだけれど。
「なんでそんなこと、気にするんだよ。」
バサラは唐突な問いかけに少し目を丸くする。
「あたしね、さっき、バサラの瞳を見ていたの。きんいろの。いつもは恥ずかしくて…すぐに目を閉じちゃうんだけど。さっき、ずっと目を開けていたら、すごくきれいだった、バサラの目!バサラは…ずっと目を開けているけど、あたしのどこを見てるのよ?」
バサラは先刻のミレーヌのいつもと違う行動の意味を理解し、なるほどな、と呟く。
「ねえ!どこをみてるの!?おしえてよ!」
ミレーヌはバサラの腕をぐいぐい掴み、催促した。バサラはしばらく考えるようなそぶりを見せ、そしてにやりと笑った。
「…おまえの、デコだな。」
バサラはからかうようにミレーヌの額をつん、と指で軽く突く。
「もう!なんでそこなのよ!?もっと見るとこないわけっ?!」
目とかっ口とかっそぉゆうの!
ミレーヌはバサラの腕の中で暴れ始める。バサラはく、と笑いだして
「お前のだだっ広いデコ、見てるとおもしれえよな。叩くといい音するぜ、ほら。」
バサラは、抗議しようと彼の方を見上げたミレーヌの額をぺちん、と叩く。ミレーヌは風船のように頬を膨らませ、唇を尖らせた。
「もうバサラったら、ぜーんぜん乙女心を理解してない!もうちょっとマシな文句を考えてよねっ!バサラの無神経無神経無神経!」
ミレーヌは機嫌を損ね、バサラの腕の中から出ようともがく。バサラは暴れるミレーヌをさらにぎゅっと胸に抱え込んだ。
「もういいってば、離していいよっ」
ミレーヌが少しの抵抗を見せると、バサラはミレーヌの顎をやさしくつかんで上を向かせた。優しく笑い、いつもの調子で言う。
「そんなの、別にどこを見てるにしたって、お前しか見てないだろ。」
バサラは、赤くなったミレーヌの顔をいつものように金色の瞳でじっと捉え、視線に堪えられなくなったミレーヌが目を閉じるのを確認すると、自らもゆっくり目を閉じ、やさしく口づけた。