熱気バサラ×ミレーヌ・F・ジーナス
「…遅い」
ミレーヌは不機嫌そうに腕を組みながら、己の腕時計と前方に見える駅の改札口を交互に見つめて呟く。
「だからバサラと待ち合わせなんかしたくなかったのよ・・・」
ミレーヌはもう何度ついたか分からない溜息をまたひとつ零し、長時間立っていたせいで疲れてしまった足を休ませようと近くのベンチに腰をおろした。
今日、ミレーヌ達FIRE BOMBERのメンバーは、アキコ・リップス・レーベルの事務所へ向かうことになっていた。レーベルの社長であり、レイと旧知の仲である北条アキコに自分達の歌を評価され、彼女のもとでメジャーデビューすることになったからだ。今日はその契約をするためにアキコに事務所へ来るように云われていた。ミレーヌはバサラと駅で待ち合わせをし、一緒に向かうことになっている。
何故なら、先日愛車がエンストし、交通の足を失ったミレーヌは、ややこしい話は俺が済ませておくから、と先に事務所へ向かったレイの所為で、星の手リニアトレインを利用することになったバサラと、必然的に駅で待ち合わせることになってしまったからである。しかし、ミレーヌはかれこれバサラを45分以上も待ち続けている。バサラは約束の時間になっても一向に現れなかった。約束、指定された時間。常に手前勝手に行動する彼がそれらを遵守するとはミレーヌは考えていなかった。しかし、予想していたこととはいえ、彼の無責任な態度に、ふつふつと怒りが込み上げる。今日は自分たちバンドにとって、大切な日なのだ。ずっと目指してきた、全宇宙にFIRE BOMBERの歌を響かせる、その為の第一歩となる日なのに。
「もう!バサラなんて知らないんだから!」
ついに痺れを切らしたミレーヌは、そう言い放つと、勢いよく立ちあがった。ベンチの横に立てかけていたベースギターの入ったハードケースを乱暴に肩に担ぐ。すると、ミレーヌがベンチから立ち上がったのを見計らうかのように、2人の見知らぬ男が行く手を塞ぐようにしてミレーヌの目の前に割り入った。
「ねぇ君、今一人?さっきからずっと誰かを待ってたみたいだけど。」
「彼氏、来なかったの?もしかしてフラれちゃった?」
「何よ、あんたたち、そこどきなさいよ!あたしは急いでるんだから!」
ミレーヌは男達の台詞に苛立ちながら冷たく言い放つ。
「そんなに強がらなくたっていいんだぜ。俺達と遊ぼうよ。こんな可愛いコほっとくような男、さっさと忘れてさっ。」
「しつこいわよ!だから彼氏なんかじゃないっていってるじゃない!どいてっ!」
「強気なところも可愛いじゃん!ほら、こっち来いって。」
やめてよ、と腕を振りかぶって行く手を遮る男たちの間を割って進もうとするが、その腕を一方の男に掴まれてしまう。
「や、やだ!離して!」
男の腕力に敵うはずもなく、ミレーヌはその手を振りほどこうと足掻くが、逆に掴まれた腕をそのまま男の方へ引き寄せられてしまう。ミレーヌの脳裏に、バサラの姿が浮かぶ。事の元凶とも言えるであろう彼を恨めしく思った。
「おい、」
すると、後方から聴きなれた声がミレーヌの耳に届く。振り返ると、そこには腕を胸の前で組んでいるバサラの姿があった。
「うちのバンドのメンバーに、何か用?」
バサラはミレーヌの腕を掴んでいる男たちを睨めつけながら訊ねる。
バサラは聊か不機嫌な様子だった。眉間に皺が寄り、それが彼らをねめつける眼光をさらに鋭く見せていた。
「な、なんだ、彼氏来たじゃん。よ、よかったね!」
「俺達、そのコが寂しそうだったから話し相手になってただけだよ、な?」
すると二人の男は口々にそういうと、バサラに怯えるように一目散に退散していった。あっという間の出来事に、呆気にとられているミレーヌにバサラが近づく。
「お前、何やってんの?」
「それはこっちのセリフよ!バサラが来るのが遅かった所為ででへんなのに絡まれちゃったじゃない!」
「お前がぼけーっと突っ立ってるからだろ。」
「ぼけっとなんかしてないわよ!大体、待たせたのは何処の誰よ!?」
時間に遅れてやって来たことに関して全く反省の色を見せないバサラに、ミレーヌは思わず呆れてしまう。それどころかまるで絡まれていた自分が悪い、とでも言いたそうな彼の口調に苛立ち、ミレーヌは彼に背を向けて歩きだした。しかしミレーヌの足は、後方からの引力によって突如前進することを阻まれてしまう。驚いて思わず後ろを振りかえると、ミレーヌの腕をバサラが掴んでいた。掴まれた腕と、その先にある彼の真直ぐ己を見つめる彼の瞳に、ミレーヌは急に見つめられていることを恥ずかしく感じて顔を火照らせる。思いっきり文句を言ってやろうとおもっていたのに。山のように頭に浮かんでいた彼を諫める言葉達を、全て飲み込んでしまった。
「…なによ。」
「また変なのに引っかかると面倒だからな。行くぞ。」
バサラに強引に手を引かれたまま、歩き出す。彼のコンパスに歩幅を合わせることができなくて、ミレーヌは少し小走りになった。もう振り向くことも、声を掛けることもしない大きな背中をただ見つめる。
「…なによ、全部バサラの所為じゃない。」
強く掴まれた手首が、痛い。なのに。
ミレーヌは不機嫌そうな表情を作って一人ごちる。
先ほどから、じん、と滲み入るような痛みを孕んで、うるさく騒ぎ出している心臓の音を必死に抑えながら。
「うちのバンドのメンバーに、何か用?」
→「ソレ、俺の。」
ってバサラに言ってほしかった…。
断念。いつか書こう。
そのちょっと後のお話(小話)を「50の小話集」にUPしました。
私がこれを書く上で気をつけたこと、
95年風の、ナンパ笑
でも最近私は「お茶しませんか。」と声をかけられました。
…古いだろうその手は;;