11/07/05 熱気バサラ×ミレーヌ・ジーナス
咽返るような暑さに寝苦しさを感じて寝返りを打てば、肌を擦る真っ白なシーツがさざ波のようにざわりと鳴いた。白いシーツの波に飲まれて、ミレーヌの身体は泳ぐようにうねる。白磁の皮膚は汗でしっとりと湿り、霞んだ月のホログラムを反射して淡く光っている。
「……あつーい……」
何度目かの輾転を繰り返したのち、むくりと起き上がって不機嫌そうに呟いた。
サイドボードに置かれた緑色のペットボトルを手にとって、口元へと運ぶ。微温くなったペリエは舌の上でぱちぱちと跳ねながら、いとも簡単に口腔の温度と混じりあう。この暑さの中放置していたのだから冷たいはずはないと分かっていたはずなのに、寝ぼけた思考はそれを不服と感じたらしい。ぬるい、とぽつりと呟いて、もう一口含んでから蓋をしてしまった。
「よく寝てられるわね……」
ミレーヌはベッドのへりに腰掛けて、隣で眠る男に向けて恨めしそうに小さく言った。同時に「よく一緒に寝てられるわね」とからかうように自分の中のもう一人の自分がそう囀ったのには、聞こえない振りをする。じわりと頬が熱くなってしまったのは、きっと暑さのせいだけではないのだろう。
ミレーヌが幾度寝返りを打っても、ひっそりと声をかけても、同じベッドで眠る熱気バサラが目を醒ますことはなかった。けれど暑くないなんてことはやはりないようで、健康的な色味の肌には、汗の粒が点々と散っていて、時折寝苦しい表情を浮かべている。
「あつい、」
ミレーヌは寝息を立てる彼の頬に手のひらを添えた。反応はない。首筋を撫でて、厚い胸板や凹凸のある腹筋をさする。それから隆々とした上腕をゆるく掴んだり、放り出された手のひらに指を絡ませたりした。
手持ち無沙汰に、所在なく。
早く再び眠りについてしまわないと翌朝の仕事に支障が出てしまうかもしれないのに(肌の白いミレーヌは寝不足になると目元のくまがよく目立つ)、暑くて眠れないのであればその熱を冷まさなければいけないのに、さっきからしている行為はどれも逆効果で、ミレーヌはちっとも眠ることができないし、火照ってしまった皮膚も元にはもどらない。でも、ふと触れてみたくなってしまったのだ。こうなることは、分かっていたのに。
「あつい、バサラ、」
どうしよう。
もう一度声を掛けてみたけれど、案の定返事はない。
ミレーヌは困ったように笑いながら、再びベッドへと横たわる。大きく口を開いて眠りこけるバサラの身体にぴとりとくっついて、べたつく肩口に唇を付けた。
自分と同じシャワージェルの香り、汗の匂い、それから彼の体臭を全部吸い込むと、暑くて、熱くて、胸が騒ぐのに何故か気持ちがいい。
ゆっくりと瞳を閉じる。寝ぼけた彼が泳ぐように掻いた腕がミレーヌの身体に触れて、包みこむように抱きしめられた。皮膚と皮膚がぴたりとくっついて、二つの体温が溶けるようにまざりあう。一人でも持て余していた熱は増幅して、くらりと目眩がしてしまいそうだ。
「あついのに……」
身体に灯る熱は消えない。なのにそれがひどく心地いいなんて。