言い訳


街頭もまばらのアクショとシティ7を繋ぐ連絡通路を、ミレーヌは一人で歩いていた。
ミレーヌの愛車である真っ赤なクラシックオープンカーは、今朝練習場へ向かう途中にエンストしてしまい、
現在メンテナンス中だ。今晩は、歩いて星の手線の最寄駅まで向かい、電車で帰宅する予定である。

(あーあ…ついてなーい。車、いつ戻ってくるのかしら。)

バンパイア騒動はひとまず鎮火して、シティ7には平和が戻っていた。しかし、
アクショの治安の悪さは相変わらずだ。年ごろの少女が一人で歩いていれば、
其処らを屯する柄の悪い不良たちの格好の的となってしまう。
ミレーヌは、いつもなら車で何気なく通っているこの連絡通路を不気味に感じ、
急いで通り過ぎようと足早に歩く。すると、背後からなにやら足音が聞こえ、
ミレーヌはびくりと身体を震わせた。そっと耳をそばだてると、
20メートル程後ろを何者かが歩く足音が確かに聞こえてくる。
コンパスの長さからいって、大人の男性だろうか。

(や、やだ!痴漢!?走って逃げなきゃ!)

ミレーヌはベースギターを肩に担ぎながら、全力で薄暗い通路を駆け抜ける。
わき目も振らず走り続けていると、どうやら後ろを歩く男も走ってこちらへ向かっているようだ。

(うそっ!?走って付いてきてる!)

怖くて後ろを向くことができない。どうせ振り向いたところで視界は暗闇に遮られてしまうのだが。
ミレーヌは更に加速をつけて、追いつかれまいと必死に走る。頭で何も考えることができず、
後ろの男が何やら言葉を発しているのにも気づかない。足音が近づく。
後ろから伸びてきた手に、二の腕を掴まれてしまう。

「おい!ミレーヌ!」
「…へ?」
「何で逃げるんだよ!?」
「バ、バサラ…。」
「せっかく人が送ってってやるっつってんのにお前が先に帰るから…。」
「別に平気だもん・・・。」
「お前になんかあると、俺がレイに怒られるの。」

バサラは面倒臭そうにそう言い放つと、ミレーヌの手を取って歩き出す。

「ねぇ、バサラ。」
「んー。」
「バサラも少しは心配してくれたの?」
「何を。」
「あたしのことよ!か弱い女の子に夜道は危険だって、思ったんでしょ?」
「俺はレイに言われて来ただけだよ。」
「…なぁによ。ほんとは心配だったクセに。」
「…そうだな。」
「、え?」
「グババが心配だったからな。」
「…もう。」

いつも通りのやり取りに、ミレーヌの抱いていたわずかながらの期待はあっさり打ち砕かれる。
それでも。

(バサラの手、あったかい。)

繋いだ手のひらから伝わるあたたかさに安心している自分に気が付いて、
ミレーヌは照れくさそうに小さく笑った。





けっきょくバサラは家まで送ってくれるんだとおもう。