嘘つき
朝目が覚めると、バサラの姿はもうなかった。
先ほどまで同じベッドで眠り、熱を分け合っていたのに。
今ではその温もりすら残ってはいなかった。
一体何処へ、なんて質問は今更だった。
彼は再び、旅立ってしまったのだ。
バサラは鳥のように自由な男だ、とミレーヌはおもう。
追いかけて捕まえようにも、手を伸ばしても届かないから。
だから自分は、彼が疲れた翼を休める止まり木になろう、と決めたのだ。
「嘘つき。」
ミレーヌは主のいなくなった閑散とした部屋で人知れず呟く。
「今日は行かないって、いったのに。」
置手紙のひとつもないなんて。
「もう、待っててあげないんだから。」
そう呟くミレーヌの表情は、その言葉に反して穏やかだった。
もう出発するよ、なんて言ったら、きっとミレーヌは泣いちゃうから。
でもバサラは必ず戻ってくる。ミレーヌにはそれが分かってるんです。