もう一度
バサラを呼ぶ騒々しい声が部屋の外から幾度ともなく聞こえたかとおもうと、
その声の主は老朽化の進んだ廃墟の練習場のドアを勢いよく開け、その中で淹れたてのコーヒーを啜るバサラをぎらりとねめつけた。
しかしバサラは、ミレーヌか、といつもと変わらないような口調で言うと、再び手に持ったコーヒーカップに口をつける。
ミレーヌは彼の元へとつかつかと歩み寄り、何やら切羽詰まった表情でバサラに訊ねた。
「バサラ!ママと会ったの!?」
「あ?」
「ママよ!ここに来たんでしょ?」
「…ああ。イキナリ訳のわかんねーこと言い出して俺を連れ出しやがった。」
「やっぱり!もうママったら余計な事してっ。」
「お前の差し金じゃないのかよ。」
「違うわよ!」
「…たく、どうにかしちゃってるんじゃないの。」
「はぁ…信じらんない。なんであたしとバサラなのよ。ガムリンさんにも他の女の子紹介したみたいだし…。」
ガムリンさんになんてことしてくれたのよ、とため息をつくミレーヌに、バサラは御愁傷様、と口先だけの言葉を掛けると、
空になった己のコーヒーカップを濯いで棚に戻した。
「とにかく、今日のことはママのいつもの勝手な思いつきだから。…それで、その、バサラ…」
悪かったわ、ママが迷惑かけて、と彼女が珍しく素直に詫びを言ったことに少し驚いて、バサラは一瞬目を見開いた。
しかし、元々休憩のために部屋から出てきたのか、バサラはレイが置いていったのであろう、
棚の上に置いてあったサンドイッチを造作なく掴むと、自室へ戻ろうとドアの方へと歩き出してしまった。
「ね、ねぇ待ってよ!」
ミレーヌが慌てて引き止めると、バサラは面倒そうに振り返る。
「バサラは、なんて答えたのよ。その…あたしとのこと。」
「ガキの面倒は勘弁しろ、って言った。」
にやりとからかうように笑う彼に、ミレーヌはかっ、と頬を上気させながら吠えかかる。
自分のその問いかけへの答えは想像できてはいたが、実際にその通りにばっさり切り捨てられてしまうと腹が立つ。
「ふんっ。まぁた子供扱いして!こっちだってバサラとなんて願い下げよ!
あたしだって、大きくなったらママやお姉ちゃん達みたいにキレイになるんですからね!ま、バサラにはカンケーないけどっ。」
癇癪を起こし、臍を曲げてそっぽを向くミレーヌの姿に、バサラは優しく微笑む。
ミレーヌの方へと歩き出し、ぽん、と頭に手を乗せると、ぐしゃ、と乱暴にミレーヌの細い髪を掻いた。
そして再びドアの方と歩みを進め、ノブを回す。
「期待しないでおくよ。」
そう笑いながら言い放つと、ドアをゆっくりと閉めて自室へと戻っていった。
「なぁによバサラってば…って、え?」
□もう一度、言って!!□