「珍しいな。」
SMSの宿舎にある食堂で、アルトは小さくつぶやいた。
「何がですか?先輩」
赤い頬が幼さを滲ませる可愛らしい後輩が尋ねる。
「ミハエルだよ。ほら、みろよ。」
アルトは3つ先のテーブルに座っているミハエルを指す。
ミハエルは、上司であり、幼馴染であるクラン・クランと一緒にいた。
「ミシェル先輩がどうかしたんですか?あれ、大尉と一緒にいる。」
でも別に珍しいことじゃないですよ。二人は幼馴染なんですから、とルカは返す。
「違うんだ。ミハエルの顔だよ。あいつ、いつも女と話すときはヘドが出るくらい甘ったるい笑い方と話し方するだろ。レディーファーストだの男は紳士らしくだのって…でも…」
アルトはふとミハエルとクランに目を向ける。そこに座っていたミハエルは紳士らしい態度もなければ、過度に着飾った台詞もなかった。
「クーランッ!今日もピーマン残すのか?大きくなれないぞ。」
「うるさいミシェル!そんなもの食べなくたって私は十分大きいんだ。」
「その身体で言ったって説得力ないぞ。ちっさいな、クランは。」
「なんだとぉぉぉ!!こぉらぁミシェル!今日こそ成敗してくれるっ!」
ミシェルと小さい子供のような上司とのやりとりは、微笑ましささえ感じさせる。ルカはクスクス笑いだした。
「そういえばそうですね。ミシェル先輩、大尉といるときは子供みたいだ。きっとミシェル先輩にとって大尉は特別な存在なんですよ。」
そろそろ行きましょう、とルカがアルトに声をかける。ミハエルを呼ばなくていいのか、と訊ねたアルトに、
「二人の邪魔をしてはいけませんから。」
とルカは悪戯っぽく笑った。
アルトはいまいちよくわからない、といった様子で食堂をあとにした。
午後のトレーニングの後、更衣室で着替えていたミシェルに、
「お前と大尉っていっつもあんなかんじなのかよ。」
とアルトが訊ねた。ほら、食堂でさ、と付け加える。
「ああ、クランとは腐れ縁ってやつかな。」
そう言ったミハエルの顔はとても優しげだった。
幾多の女性へ向けていたであろう甘い紳士的な笑みではなく、
もっと、特別な、一人のひとへ。
「…。」
アルトは何も言わなかった。ルカの言っていたことがなんとなくわかったからだ。
「なんだよ?アルト」
そうミハエルに聞かれると、なんでもねぇよ、と言い、支度を済ませて出て行った。どこか掴めないやつだ、と思っていた彼の、少し人間らしいとこを知り、アルトは嬉しくなった。
あ と が き
クランにだけほんとうの自分をみせる、
なんてかわいいじゃないですか、ミシェルは!!
4話以降、まだSMSに入りたてのアルトからみた
ミハエルとクランの日常風景です
2009/01/10