3000hitキリ番リクSS Gen sama


「ミレーヌの結婚相手はバサラがいいと思うのよ。」
「…は?」

唐突に切り出された、目の前に向かい合って座っている彼女の言葉に、フォークの先についていたミディアム・レアのラム肉をぽとりと真白い皿の上に落としてしまった。何を言っているんだ、と口には出さず、様子を窺うようにミリアの顔を見つめると、何やら機嫌のよさそうな表情で、その問いかけへの返答を求めている、という訳でもなく、それがまるで彼女の中での決定事項であるかのようにそう言っているように感じられた。

バロータ3198XE第4惑星での、オペレーション・スターゲイザー 及びバロータ軍との最終決戦により、ゲペルニッチ率いるプロトデビルンらは遠い銀河へと旅立、マクロス7船団と彼らとの長い攻防は幕を閉じた。艦長の席を離れ、再びバルキリーに乗ることを決断した時、真先に己の脳裏に浮かんだのは妻であるミリアの存在だった。彼女に、バトル7を守って欲しい、と伝えた時のその表情が、かつて第一次星間戦争を共に勝ち抜いた若き日の彼女のそれとシンクロして、一瞬懐かしい記憶が蘇ったのを憶えている。誇り高きゼントラーディの血。彼女もまた戦士だった。そうだ、私達は夫婦であると同時に戦友であったのだ。共に闘うことで、私達は更に深く結ばれてゆくのだと。しかし終戦後、ミリアとは未だに別居中であった。先の戦いでは色褪せぬコンビネーションを発揮し絆を深めたとはいえ、一度は離婚寸前まで進んでしまった間柄である。そうそうに修善するはずもなかった。だが、私達は定期的に食事に出掛けるなどの逢瀬を重ねていた。彼女と再びやり直すことを望んでいたが、ミリアはそうではなかった。少し距離を置いた方がうまくいくものね、とそう呟く彼女の形のよい唇が弧を描いたのに見とれてしまい、それ以上言及するチャンスを失ってしまったのだった。

そして今日は、今月に入って2度目の食事会の日であり、彼女の今に始まった訳ではない突飛な思いつきに半ば唖然としているところであった。


「バサラはいいわよ。今や銀河を駆け抜ける超人気シンガーだし、バルキリーの操縦の腕だってピカ一だわ。ちょっと強引なところも女は逆に惹かれるものよ。ミレーヌがバサラと結婚すれば、シティ7一、いいえ、銀河一ビッグなカップルになれるわよ。」
「何をいきなり言い出すんだ。ミレーヌはまだ15だぞ。それに、相手が熱気バサラだなんて。」

まだ15歳を迎えたばかりである愛娘の結婚など、賛成できるはずもなかった。しかもあの熱気バサラと結婚させるなど、考えただけでも額に冷や汗が滲みそうだ。肝を冷やす私とは対照的に、ミリアは嬉々として話を続ける。

「あら、私があなたと結婚したのだって、16の時じゃない。ミレーヌだってそろそろ真剣に考えるべきだわ。あなたもバサラのこと認めているんでしょう。」

それは機体の操縦と歌エネルギーに関してのことだけだ、とすかさず付け足すが、ミリアはそんなことは耳にも留めていないようだった。このままでは完全に彼女のペースに呑まれてしまう、それは避けたかった。

「だが…ミレーヌにはまだ早すぎる。それに、ガムリンはどうしたんだ。君が彼らを引き合わせたんだろう。」
「それは心配ないわ。もうガムリンにぴったりの娘を紹介しておいたから。」
「どうして彼では駄目なんだ。君はついこの間まで彼のことを優秀で申し分ない男だと言っていたじゃないか。」

元々ミレーヌと彼とのお見合いも、元を辿ればミリアの思いつきから始まったことであったのに。最初から最後まで彼女に振り回されてしまったガムリンを不憫に思った。

「確かにガムリンはいい子よ。真面目だし、将来きっと軍のトップに立つ人間ね。でもミレーヌの結婚相手としては駄目なのよ。というより、軍人は、ね。」
「どういうことだ。」
「あら、わからないの?私達夫婦がいい例じゃない。軍人と結婚したって、きっとミレーヌは後悔するわよ。エリート軍人は仕事に追われて家庭を顧みないもの。どっかの誰かさんみたいにね。」

ミリアは皮肉めいた笑みを浮かべた。うまく言葉を返すことが出来ない。ミリアはこちらにじっと視線を合わせて目を逸らそうとはしなかった。まるで試されているようだ、と感じた。


自分は家庭を大事にしてきたつもりだった。
7人もの子供を授かった。共に子供たちを見守ってきた。残業も控えて早めに帰ってくるよう努めたし、休日だって、民間人に比べたら確実に少なかったが、家族と過ごす時間を大切にしてきたつもりだ。家族を愛していた。ミリアを、そして子供達を。だが己の最大限の努力と愛情は、何一つ彼女には届いていなかった、というのか。未だ鋭い視線を向け続ける彼女へ、思い切って話を切り出した。

「ミリア、君は私と結婚したことを後悔しているのか。」
「…わからないわ。」

力強い視線が、刹那困惑で揺れ動く。彼女にしては曖昧な返事だった。常に物事を白黒きちんと区別したがる彼女にしては、珍しい感情の揺れだ。

「…あなたはどうなの。」
「…私は、後悔なんかしていないさ。君との結婚は、私の人生を、そして銀河全体をも大きく左右したものだった。私はこの選択が間違っているとは思っていない。幸せだったよ。」

どこで違えてしまったのだろうか。
二人で永遠の愛を誓い合った。
死すら二人を別つことはないと、まだ若い私達はそう信じていた。
それは、時が経てば消え失せてしまうものなのか。
種族や銀河を超えたものといわれていた私達の愛は。

二人の間を漂う空気は鉛のように重々しかった。目を逸らせば、その重圧に負けてしまうような気がした。それは彼女との初めての手合の瞬間と酷似した緊張感だった。その沈黙を破ったのは、ミリアの静かに響く声だった。それは囁くように小さく、しかし確実に己の耳へと沁み入る優しい声色だった。

「そうね、すくなくともあなたと結婚したことを失敗だとは思っていないわ。だって、悔しいけど、あなたと子供たちと過ごした日々は、幸せだったもの。」

これが最善の選択だとは思っていないけどね、と憎まれ口ひとつを零して、ミリアはおもむろに席を立った。

「ミリア、」
「今日はもう帰るわ。御馳走様。」

アイボリー色のストールを肩へとふわりと乗せ、引き止める私の声を無視して歩き出してしまう。相変わらずのしゃなりとした一本筋の通った背中が美しかった。心なしか常より速足で歩いているように見えるのは照れ隠しで、彼女の昔からの癖だった。そんな姿に、思わず口元に笑みが浮かぶ。彼女の姿が見えなくなるまで、私はその後ろ姿を見つめていた。

「まだまだ時間がかかりそうだな」

やれやれ、と小さく頭を振り、席を立った。
思わず苦笑してため息を零す。しかし悠然と歩く、その足取りは不思議と軽やかだった。





THANX FOR YOUR REQUEST!!

Gen sama

asya@planet dance!

51話の雰囲気がお好きだとおっしゃっていたので、
ちょっとオマージュっぽいかんじにしてみました。
マックスにはもっともっと困ってほしい。
ミリアに振り回されて、最後にはちょっぴり幸せだといいな^^
ありがとうございました。最大級の感謝を!!