navy blue
新緑の青葉が風に揺らいで光る木々の下を、ミレーヌは全速力で駆け抜ける。初夏にしてはやけにぎらぎらと照りつける太陽に、呼吸が段々と荒くなっていった。中等部の中庭を突っ切って、今はもう使われていない錆びついた焼却炉の前までたどり着くと、ミレーヌは二つに結わいた桃色の髪を風にゆらりとなびかせて立ち止まる。弾んだ息をどうにか落ち着かせようと細い肩を上下させ、ゆっくりと地面へ向いていた視線を正面へと移した。眼前にあるのは、高さ3,5メートル程あるであろうメッシュフェンスだ。このフェンスがミレーヌ達の通う学園の中等部と高等部とを分ける境となっている。ミレーヌは左右に視線を侍らせ、周囲に誰もいないことを確認すると、フェンスに右足を掛け、勢い良くよじ登った。天辺まで登り切り、跨いで高等部の敷地内に入り込むことに成功すると、ミレーヌはほっと息を吐く。慎重な動きでするすると地面へと近づくと、軽やかな身のこなしでフェンスから飛び降りた。ネイビーブルーの角襟と、きちんと整えられたアコーディオンプリーツのスカートがふわりと揺れる。パフスリーブの綿ツイルの白ブラウスに白いラインの入った濃紺のセーラーカラーが映える制服は、ミレーヌのお気に入りだった。それに加えて勝手に取り付けたピンクのサテンリボンは、制服にオリジナリティを出すために、規定とされている臙脂色のそれの代わりにつけているものだ。ミレーヌは乱れてしまった角襟とスカートを整えると、先程よりはゆっくりとした足取りで、目的地へと歩みを進めた。
ミレーヌの通う学園は、広大な敷地内に初等部、中等部、そして高等部が並立するマンモス校であった。初等部から通い続けている生徒ですら、この敷地内のすべてを知ることは不可能であろう。
ミレーヌは、最近新築された新しい校舎を横目でちらりと見やって通り過ぎ、正門から見てほぼ南に位置する古びた3階建の木造校舎へと向かった。人もまばらな高等部敷地内の最南に位置しているのは、数年前まで主校舎として利用されていた建物だ。老朽化が進んだため、取り壊しをせずに別の場所に新しく校舎を建て替えたのだ。旧校舎をそのままにしておいたのは、この木造建築物が歴史的にとても古く、芸術的観点からみても優れていたからであるが、一部の生徒達の噂によると、取り壊しについての話し合いの最中、幽霊騒動があった、というのが主な理由であるらしい。結局、旧校舎はそのままの形で残され、生徒達が部活動などに自由に利用できる学生棟として開放されたのであるが、先の幽霊騒動の所為か、誰も近寄ろうとはしなかった。そのような曰くつきの旧校舎へと、ミレーヌは刹那の迷いすらなく向かっていった。観音開きの正面扉の錆びついた取っ手を握り、ぎりぎりと音を立てて開け、中に入る。今にも抜けてしまいそうな床板を慎重に踏み歩きながら、照明のない階段を黙々と上がっていった。2階、西側突き当り、第二音楽室。ミレーヌは至極慣れた様子で戸を引き開けた。ここは、彼女の所属する軽音部の活動拠点なのだ。
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つ、つまらない…!!
まだ誰もしゃべってないよ・・・?
そう、これは序章です。
ここまで読んでみて「あ、学パロだめだ…」
と思った方は、ごめんなさい。更新がおわるまで当分のぞかない方がいいです。
ちなみに、余分な説明とは思いますが、
旧校舎=アクショ です笑
>>(2) hide and seek