hide and seek


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「遅れてごめんなさい!!今日日直だったの!」

立付の悪い木製の引き戸を思い切り音を立てて開ける。滑りのあまり良くない金属製のやや錆びついたレールは、先月レイが蝋を塗ったばかりだというのに戸は半分程しか開かなかった。

「ミレーヌ、やけに遅いと思ったら居残りだったのか。」
「先生に雑用頼まれちゃったのよ。ああー肩が痛い。ビヒーダ!遅れてごめんね。」

レイは来月行われる校内ライブで使用する機材の整備をしていた。彼は高等部の3年生で、軽音部の部長を務めている。この学園に軽音部を設立した張本人でもある。18歳とは思えないような大人びた風貌をしており、本人曰く、であるその年齢に聊か疑念を抱くのであるが、実際、本当の年齢は昔からの馴染みであるビヒーダやバサラですら知らないという。ミレーヌもそのことについてはかねてから疑問には思っていたのだが、あえて口に出すことはしない。

ミレーヌは、先程まで従事していた社会科準備室での用具整理の際に痛めた右肩をぐるぐると大きく回しながら、ドラムを叩いているビヒーダに目を向け、挨拶を交わした。ビヒーダもレイと同じく高等部の3年生であり、軽音部ではドラムスを務めている。無口な性格で、普段メンバーとはめったに口をきくことはないが、ミレーヌにはなぜか彼女が口に出さずとも、彼女の言いたいことが分かるような気がしていた。おそらく他のメンバーもそう感じているのだろう。彼らは傍からみても判ることのない不思議な絆で結ばれているのだ。

ミレーヌは左肩に担いでいたベースギターの入ったハードケースを床に下ろすと、そわそわと室内と見渡した。第二音楽室と隣の第一音楽室とを繋いでいる準備室(機材や譜面、楽器などが置いてある部屋で、二つの部屋を繋ぐ通路にもなっている。)のドアを開け、そろりと様子を窺う。何かを捜しているような様子のミレーヌに、レイが声を掛けた。

「バサラならいないぞ。ちょっと前まで準備室にいたんだけどなぁ。どこかに行っちまった。」
「・・・別に、バサラなんて捜してないもん。」

楽譜よ、今日練習するやつ、と、慌てて言葉を付け足すミレーヌにレイは思わず苦笑した。そうだな、と彼は呟き、己の腕に付けた時計を覗き込む。時刻はもう5時半を過ぎていた。

「それにしてもバサラ、どこへ行ったんだ。今日は新しい曲やるって張り切ってたんだが。」
「あたしが捜して来るわよ。大体見当は付いてるの。」

ミレーヌは自信満々に胸に手を当てながらそう宣言すると、ふわりとプリーツスカートの裾を靡かせて、再びがらりと扉を引き開けた。レイは頼んだぞ、と後ろを向いて歩きだすミレーヌに声を掛け、それに気づいた彼女が振り向きざまにつき出したピースサインに微笑みを漏らす。本当に心当たりがあるのか、それとも姿を晦ました彼への対抗意識で躍起になっているのかレイには検討がつかないのだが、バサラを捜しに出掛けたミレーヌはいつも必ず彼を連れて戻ってくるのだ。バサラの失踪は今日が初めてのことではなく、相当の頻度で起こるものなのだが、ミレーヌはその度にこの旧校舎の中や、高等部敷地内、果ては中等部まで彼を捜しに駆け回り、結局はバサラの捕獲に成功している。誇らしげにバサラの腕をしっかりと掴み、レイとビヒーダに向かってにっこりと笑う。その時のバサラの表情といえば、面倒臭そうであったり聊か不機嫌であったりするのだが、その中にもミレーヌに対するなにやら特別な感情が滲み出ているような、優しい表情を孕んでいるようにレイは感じていた。そんな彼の内包された表情に気づいたのは、付き合いの長い彼ですらつい最近のことであったのだが。おそらく、これは勝手な想像でしかないのだが、バサラはミレーヌとのかくれんぼ、姿を晦ました自身を必死で探すミレーヌの姿、を楽しんでいるのではないか、と思うのだ。それならばここ最近のバサラの隠れ場所が比較的ミレーヌにとって易しい場所になっていることも納得できる。(ミレーヌが登ることの出来ない大樹の天辺であるとか、彼女が疎いであろう高等部新校舎の中に隠れることはなくなった。)恐らく、バサラは今、この旧校舎の中に潜んでいるのだろう。今日ミレーヌが部室へとやってくるのが遅かったからだ。あまり彼女とのかくれんぼを愉しんでいても、部活動を疎かにしては元も子もない。

レイはゆっくりと腰を地面に下ろし、彼らの帰りを待つことにした。彼らが戻るまで、そう時間は掛からないだろうから。




だんだんプロローグの「ネイビーブルー」で貼っておいた伏線を回収してゆきます。
まだまだつまらなぁ…い…><

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